望診とは現代医学的には視診に相当するが、すべての診断法の中で最も重要な意味を持つ。中医学で言う「望診」は、西洋医学で言う視診とは少し違う。古典の中で「望診」について「望んで知る神をという」という言葉がある。これは「望診」のみで患者の状態が把握できるということは神技であるといことですが、この言葉にはもう一つの意味があるように思う。それは「望診」というものはすごいものだから、その技を極めると神技を身につけることが出来る。
望診は、病人の顔色や形態の変化を見て、その内部変化を観察し、疾病の性質やその予後を判断する診断法である。即ち、病人の神気の有無を察知することである。病人の顔色、光沢(つや)、表情、目つき、姿勢、動作などから、神気の得失を知り、神気があれば病状が重く見えても回復に向かい、神気がなければ、病状が軽く見えても悪化するものと考える。
望診は全体的望診、部分的望診、舌診に分けられている。
◎全体的望診:神診・色診・形態診患者が入室してから席につくまでに観察する全体的印象である。
望神
「神」は表情で、抑鬱、興奮、無表情、生気の有無などを調べる。
皮膚の色・艶がよいー神気がある、気血が充実、治療効果もよく、予後もよい。
皮膚の色・艶が悪ければー気血が不十分であり、神気がない、治療も長続き、場合によって治らない。
*得神:顔色がいい、頬がこけてない、目が輝く、精神正常、呼吸正常―精気が充実
*失神:顔色悪い、頬がこける、目に光がない、言語異常、呼吸異常―精気不足
*仮神:本当は精気が尽きそうなのに得神の状態―死の間際
望色(色を診る)
臓腑や経絡を機能させている気血営衛の盛衰は皮膚の色や光沢にあれわれる。気血が旺盛ならば皮膚に色は潤沢でつやがあり、気血が衰えれば色沢も衰える。 皮膚の色(特に顔色)が五色の一つに偏って現れているときは、五行論に基づき、その色と関係する臓が病んでいると診断する。
*常色:主色=生まれつきの色
客色=季節などによる色の変化(春―やや青・蒼色、夏−やや赤、)
*病色: 善色=潤い・光沢がある→胃気がある
悪色=潤い・光沢がない→胃気がない
*各色の主病 青→肝胆証・風証・寒証・痛証
赤→熱邪証・肝陽証
黒→寒証・痛証・腎虚証・血於証
黄→湿証・虚証
白→寒証・虚証・脱血証・脱津証
望「形」(形を診る)
望「形」とは肉体的な形状で、肥満、るい痩、姿勢、身長等が主な評価対象となる。 ただ個体にはそれぞれの遺伝的な体型や年齢による変化もあり、必ずしも標準形がよいということにもならない。要はバランスなのでしょう。
望「態」(態を診る)
望「態」とは動きで歩行の仕方、麻痺の有無など運動機能の面からと、動作が緩慢か敏活か、指先の振るえ、瞬きなど、注意すれば様々な状態像が観察される。
◎部分的望診
部分の望診は主に顔面部を観察ですが、四肢、胸腹背部等にも皮膚と皮下の状態の観察である。
中医学では、顔面の各部に五臓の盛衰が反映すると考える。この立場から顔面診は、顔面の各部に五臓を配当し、それらの部位に現れた色変などによりどの臓腑、器官に病変があるかを診断するものである。
寒熱については紅潮や炎証所見があれば熱、蒼白であれば寒と分かり易い。
気については張りがあれば気実、弛緩していれば気虚とされるが、判断はやや困難である。
水湿については湿潤、びらん、水疱、浮腫と一目瞭然である。
陰虚については乾燥肌から皺やるい痩とすぐ分かる。
血については血では、赤黒い肌や黒ずんだしみ、あるいは斑点や紅斑、毛細血管の怒張から静脈瘤まで様々な段階があるが、診断は容易である。逆に血虚では当然ながら白っぽくなるが、これには寒による末梢血流の不足と、全身的な貧血とがあることに注意すべきである。
◎舌診 (舌を診る)
部分的望診が主に表の状態の観察とすれば、裏の状態を診る最も簡単な方法は舌診である。 舌象の変化は、客観的に人体に気血の盛衰、病邪の性質、病位の深さ、病状の進展状況を反映している。一般的にいうと内臓の虚実を診る時には、舌質の観察に重点がおかれ、病邪の深さと胃気の存亡を診る時には、舌苔の観察に重点がおかれている。
*正常な舌の状態
舌診では、舌体の形態や、舌質の色と性質、舌苔などを観察する。そのためには健康人の舌の状態を知る必要がある。舌質(体)とは、舌の筋肉・脈絡組織で、舌苔とは舌体の上に付着している苔状のものである。
舌体の形態―萎縮や腫脹、強ばりや歪みがなく、裂紋や点刺もないなど、特別な形態変化がない。
舌質の色―淡紅色です、気血が共に適切に舌質を巡っている事を示す。
舌苔色と性質―舌の中心部に薄い白苔があり、適当にうるおいがある。
*病理的な舌の状態
舌体の形態と舌質の色は、臓腑の精気の盛衰を診察し、疾病の予後を判断するのに重要な意義がある。また舌苔では、その色と厚さと苔質を観察する。舌苔の色と病邪の性質との間には密接な関係があり、舌苔の厚さは、病邪の程度や病状の進退を判断するのに重要な意義がある。
舌質の色
・淡い赤色「舌質淡紅」―正常
・淡白、白っぽい「舌質淡、舌質淡白」−気虚、血虚
・鮮やかな赤色「舌質紅」―実熱、赤みが強いほど熱邪が強い。
・深い赤色「舌質絳」−血熱、陰虚、血。
・青紫〜紫「舌質青紫、舌質紫」―血。
・部分的に青紫〜紫の斑点―「斑、点」
舌体の形態
・大きく、腫れぼったい「舌質胖大」−気虚、陽虚。
・薄く、痩せている「舌質痩小」―陰虚
・舌の辺縁に歯形がつく「舌辺歯痕」−気虚
・舌体の表面の亀裂「裂紋」があり、舌質紅、舌質降―陰虚
・舌体の表面の亀裂「裂紋」があり、舌質淡、白―気血両虚
・舌の裏の青紫色の絡脈が怒張するーお血
舌苔 ・舌苔の色
白色「舌苔白」―正常、表証あるいは寒証。
黄色「舌苔黄」―熱証。
灰色〜黒色「舌苔灰色〜黒色」―裏証(熱証、水湿証、痰飲の重症の場合が多い)
舌苔の厚さと苔質
薄い舌苔を透して舌体が見えることを、「見底」できるという。舌苔は見底できるものを薄い苔といい、見底できないものを厚い苔という。舌苔が薄い苔から厚い苔に変化することは、病邪が表から裏に入り病情が進行していることを示し、舌苔が厚苔から薄苔に変化することは、病邪が裏から外へ出てきて病状が好転していることを示している。
薄苔―苔が薄く、見底できるものー正常、表証、虚証、邪気が弱い
厚苔―苔が厚く、見底できないものー裏証、実証、邪気が強い
潤苔―苔に潤いがあるものー正常、(津液の未損傷)湿邪
燥苔―苔が乾いているものー津液の損傷、陰液の損傷、燥邪
滑苔―苔の水分過多―水湿の停滞膩苔−苔ガねっとりし、剥離しにくいものー痰飲、湿濁
腐苔―苔がおから状を呈し、剥離しやすいものー食積、痰濁
剥落苔―苔の一部、またはすべてが剥落している物―陰虚、胃虚
舌診で判断するのは主に裏における寒熱と、水湿あるいは陰虚の違い、およびお血の存在であるが、一般的に言って舌質の変化は緩やかであるのに対し、舌苔の変化は速く、数日で苔が消失することもあり、また本来陰虚で痩薄舌であった上に、厚い舌苔が覆っていたのが、舌苔が消失すると、たちまち元の陰虚の舌に変わるといった現象もまま見られる。