東洋医学は西洋医学に対する医学であり、主に中国医学(中医学)のことを指す。世界三大伝統医学(ギリシャ医学・インド医学・中国医学)の中の一つです。中医学とは、中国において、主に漢民族によって発展させられ、朝鮮半島や日本にも伝わってそれぞれ独自の発達を遂げた伝統医学の総称です。日本においては、東洋医学と呼ばれることが多いです。
東洋医学の基本特徴 東洋医学の診断と治療
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東洋医学は西洋医学に対する医学であり、主に中国医学(中医学)のことを指す。世界三大伝統医学(ギリシャ医学・インド医学・中国医学)の中の一つです。中医学とは、中国において、主に漢民族によって発展させられ、朝鮮半島や日本にも伝わってそれぞれ独自の発達を遂げた伝統医学の総称です。日本においては、東洋医学と呼ばれることが多いです。
東洋医学の基本特徴 東洋医学の診断と治療
1)自然哲学思想
西洋医学は,ルネッサンスの影響を受けた,自然の真理を客観的・絶対的に分析する自然科学を土台に発達した医学である。
それに対して東洋医学は自然の現象から哲学が産まれ,それを人体の生理・病理の考え方に取り入れた,いわば自然哲学を土台に発達した医学であるといえる。
2)総合的思考
自然科学にその根拠を求める西洋医学は,要素還元主義的分析を行い,それが現代の技術革新と重なり,めざましい発展をとげてきた。
それに対し東洋医学は,人体の局所にとらわれるのではなく(要素に還元するのではなく),常に人体を一つの統一性を持った有機体として捉え観察研究して発達してきた医学である。
3)相対的認識法
西洋医学は,ある現象の捉え方を普遍化・絶対化することにより,客観化と定量化を進め発達してきた.すなわち,さまざまな生体現象を数値として扱い客観的評価基準を尊重する。
東洋医学は一人一人に基準を置き,その人の中での調和や平衡を重視してきた.いわゆる絶対的な基準を持たない相対的認識に基づく医学である。
臨床診断や治療について
東洋医学と西洋医学の最も大きな違いは、疾患や体のとらえ方です。
西洋医学では患者の症状や訴えを聞き、さまざまな検査方法を用いて、考えられる病名を診断し、その病気あるいは病原菌などに対して治療方針を立てます。検査値の正常化が治療の重要なポイントとなります。薬や手術が病原菌などと戦う主戦力となり、局部の病気は主にその部分だけの病変と認識され、薬や手術でその部分の治療のみに力を注ぎます。
東洋医学では、人体の全体性を重視している。病気は体のある部分だけの病変ではなく、五臓六腑のすべての機能につながった生命体の病変としてとらえます。東洋医学の考え方としては、人間にはもともと自然治癒力が備おり、常に襲って来る細菌やウイルスなどの病原菌と戦って、生命を維持する能力を発揮しています。自然治癒力がこの戦いの主戦力となり、戦いの結果、体の自然治癒力が勝てば「健康」、負ければ「病気」や「死」につながります。東洋医学の治療はこの戦いの中で援軍の役割を果たし、体の自然治癒力の手助けをします。同じ病名でも人によってそれぞれの体質に適応した援軍を(人によって異なる薬、つぼ)を送らなければならない、医者は脈や舌、患者の訴えや体調などにより患者の体質を見分け、その体質に合う処方をします。なので、治療では人間の自然治癒力を高めることを主眼に置いてます。
東洋医学の治療法とは
主に薬物療法と物理療法の2種類がある。
◎薬物療法は漢方薬(中薬)のことをさす。
中薬は中薬の内服葯(煎じ薬、丸剤、エキス剤など)、外用中薬、葯浴、葯用化粧品などがある。
◎物理療法は経絡・経穴に対する鍼灸療法、推拿・按摩療法を含む。
1.鍼灸療法は体針、耳針、梅花針、通電療法、灸法などがある。
2.推拿・按摩療法は頭部、顔面部、腹部、四肢、全身保健按摩、足底按摩などがある。
東洋医学診断法(中医学診断法)は中医学理論と中医学臨床各科の架け橋である。
それは中医理論に基づき、病気に関する情報の診察、病気の判断と弁証についての理論、知識、方法、技術を研究する学問である。
西洋医学における診断は患者の精神的、肉体的異常を的確に把握し、その病情を判断し、病名を判断することであり、そして、その病名に対する治療方法を決定することである。
中医学における診断は、西洋医学の診断法が一般的に使われているが、中医は病名に対する治療ではなく、証に対する治療なので、西洋医学の診察法の以外に、証を立てるために使う中医の特殊な診察法の四診法である。それはを身につけないと中薬・鍼灸などの中医治療法を正しく使用できることができないわけである。
中医学診断法の基本原則は3つがあります。
(1)整体観
◎人体の全体性 中医学において人間をひとつの大きな有機体として捉えている。人体各部のバランスと統一性、肉体と精神、臓腑機能と気血津液などを全体に考えて、臨床診察するときに、局部の傷害を見るだけではなく、病気に関するあらゆる情報を分析しなくてはならない。
◎人体と自然 中医学における人体と自然との関連性を重視されている。人間の生存、成長さらに病気に至るまでのあらゆる現象はすべて自然環境の影響を受けていると考えなくてはならない。
(2)四診合参
四診合参とは四診によりあらゆる角度からとられた病気に関する情報を総合的にまとめて考えることである。単なる脈診、または舌診だけでは取れない情報があるから、病気に関する情報を漏れなく、正しく取るために、各診法を総合に使用し、合わせて考えることが大切である。
(3)病証結合 診病とは病気の全過程を捕まえる、病気の種類を判断することである。
四診とは中医学における弁証(疾患のタイプを弁別する)に必要な情報を得るための手段として、望診、聞診、問診、切診の四つの診断方法です。
◎望診―治療者の視覚で、患者の全身、局所の状態および舌、排泄物などの状態の観察を通じて病気に関する情報を取る方法である。
◎聞診―治療者の聴覚・嗅覚を通して患者の声や咳、喘、ため息、腸鳴などを聞く、体臭や排泄物、分泌物のにおいを嗅ぐなど観察を通じて病気に関する情報を取る方法である。
◎問診―患者の主訴と病気の発生、進展、治療歴、その反応、現時点の症状などを調べることにより病気に関する情報を取る方法である。
◎切診―患者の脈と体を触ることにより病気に関する情報を取る方法である。主に脈診と腹診の二つの方法がある。
以上の四診により、集まれた情報は、1次的な情報である。一次的な情報は治療の根拠にはならない。それを中医学の基礎理論(陰陽五行学説、気血津液学説、臓腑学説、経絡学説、病因学説、病機学説など)基づきまとめて、弁別し、つまり証を弁別してから治療の処方をする 。
望診とは現代医学的には視診に相当するが、すべての診断法の中で最も重要な意味を持つ。中医学で言う「望診」は、西洋医学で言う視診とは少し違う。古典の中で「望診」について「望んで知る神をという」という言葉がある。これは「望診」のみで患者の状態が把握できるということは神技であるといことですが、この言葉にはもう一つの意味があるように思う。それは「望診」というものはすごいものだから、その技を極めると神技を身につけることが出来る。
望診は、病人の顔色や形態の変化を見て、その内部変化を観察し、疾病の性質やその予後を判断する診断法である。即ち、病人の神気の有無を察知することである。病人の顔色、光沢(つや)、表情、目つき、姿勢、動作などから、神気の得失を知り、神気があれば病状が重く見えても回復に向かい、神気がなければ、病状が軽く見えても悪化するものと考える。
望診は全体的望診、部分的望診、舌診に分けられている。
◎全体的望診:神診・色診・形態診患者が入室してから席につくまでに観察する全体的印象である。
望神
「神」は表情で、抑鬱、興奮、無表情、生気の有無などを調べる。
皮膚の色・艶がよいー神気がある、気血が充実、治療効果もよく、予後もよい。
皮膚の色・艶が悪ければー気血が不十分であり、神気がない、治療も長続き、場合によって治らない。
*得神:顔色がいい、頬がこけてない、目が輝く、精神正常、呼吸正常―精気が充実
*失神:顔色悪い、頬がこける、目に光がない、言語異常、呼吸異常―精気不足
*仮神:本当は精気が尽きそうなのに得神の状態―死の間際
望色(色を診る)
臓腑や経絡を機能させている気血営衛の盛衰は皮膚の色や光沢にあれわれる。気血が旺盛ならば皮膚に色は潤沢でつやがあり、気血が衰えれば色沢も衰える。 皮膚の色(特に顔色)が五色の一つに偏って現れているときは、五行論に基づき、その色と関係する臓が病んでいると診断する。
*常色:主色=生まれつきの色
客色=季節などによる色の変化(春―やや青・蒼色、夏−やや赤、)
*病色: 善色=潤い・光沢がある→胃気がある
悪色=潤い・光沢がない→胃気がない
*各色の主病 青→肝胆証・風証・寒証・痛証
赤→熱邪証・肝陽証
黒→寒証・痛証・腎虚証・血於証
黄→湿証・虚証
白→寒証・虚証・脱血証・脱津証
望「形」(形を診る)
望「形」とは肉体的な形状で、肥満、るい痩、姿勢、身長等が主な評価対象となる。 ただ個体にはそれぞれの遺伝的な体型や年齢による変化もあり、必ずしも標準形がよいということにもならない。要はバランスなのでしょう。
望「態」(態を診る)
望「態」とは動きで歩行の仕方、麻痺の有無など運動機能の面からと、動作が緩慢か敏活か、指先の振るえ、瞬きなど、注意すれば様々な状態像が観察される。
◎部分的望診
部分の望診は主に顔面部を観察ですが、四肢、胸腹背部等にも皮膚と皮下の状態の観察である。
中医学では、顔面の各部に五臓の盛衰が反映すると考える。この立場から顔面診は、顔面の各部に五臓を配当し、それらの部位に現れた色変などによりどの臓腑、器官に病変があるかを診断するものである。
寒熱については紅潮や炎証所見があれば熱、蒼白であれば寒と分かり易い。
気については張りがあれば気実、弛緩していれば気虚とされるが、判断はやや困難である。
水湿については湿潤、びらん、水疱、浮腫と一目瞭然である。
陰虚については乾燥肌から皺やるい痩とすぐ分かる。
血については血では、赤黒い肌や黒ずんだしみ、あるいは斑点や紅斑、毛細血管の怒張から静脈瘤まで様々な段階があるが、診断は容易である。逆に血虚では当然ながら白っぽくなるが、これには寒による末梢血流の不足と、全身的な貧血とがあることに注意すべきである。
◎舌診 (舌を診る)
部分的望診が主に表の状態の観察とすれば、裏の状態を診る最も簡単な方法は舌診である。 舌象の変化は、客観的に人体に気血の盛衰、病邪の性質、病位の深さ、病状の進展状況を反映している。一般的にいうと内臓の虚実を診る時には、舌質の観察に重点がおかれ、病邪の深さと胃気の存亡を診る時には、舌苔の観察に重点がおかれている。
*正常な舌の状態
舌診では、舌体の形態や、舌質の色と性質、舌苔などを観察する。そのためには健康人の舌の状態を知る必要がある。舌質(体)とは、舌の筋肉・脈絡組織で、舌苔とは舌体の上に付着している苔状のものである。
舌体の形態―萎縮や腫脹、強ばりや歪みがなく、裂紋や点刺もないなど、特別な形態変化がない。
舌質の色―淡紅色です、気血が共に適切に舌質を巡っている事を示す。
舌苔色と性質―舌の中心部に薄い白苔があり、適当にうるおいがある。
*病理的な舌の状態
舌体の形態と舌質の色は、臓腑の精気の盛衰を診察し、疾病の予後を判断するのに重要な意義がある。また舌苔では、その色と厚さと苔質を観察する。舌苔の色と病邪の性質との間には密接な関係があり、舌苔の厚さは、病邪の程度や病状の進退を判断するのに重要な意義がある。
舌質の色
・淡い赤色「舌質淡紅」―正常
・淡白、白っぽい「舌質淡、舌質淡白」−気虚、血虚
・鮮やかな赤色「舌質紅」―実熱、赤みが強いほど熱邪が強い。
・深い赤色「舌質絳」−血熱、陰虚、血。
・青紫〜紫「舌質青紫、舌質紫」―血。
・部分的に青紫〜紫の斑点―「斑、点」
舌体の形態
・大きく、腫れぼったい「舌質胖大」−気虚、陽虚。
・薄く、痩せている「舌質痩小」―陰虚
・舌の辺縁に歯形がつく「舌辺歯痕」−気虚
・舌体の表面の亀裂「裂紋」があり、舌質紅、舌質降―陰虚
・舌体の表面の亀裂「裂紋」があり、舌質淡、白―気血両虚
・舌の裏の青紫色の絡脈が怒張するーお血
舌苔 ・舌苔の色
白色「舌苔白」―正常、表証あるいは寒証。
黄色「舌苔黄」―熱証。
灰色〜黒色「舌苔灰色〜黒色」―裏証(熱証、水湿証、痰飲の重症の場合が多い)
舌苔の厚さと苔質
薄い舌苔を透して舌体が見えることを、「見底」できるという。舌苔は見底できるものを薄い苔といい、見底できないものを厚い苔という。舌苔が薄い苔から厚い苔に変化することは、病邪が表から裏に入り病情が進行していることを示し、舌苔が厚苔から薄苔に変化することは、病邪が裏から外へ出てきて病状が好転していることを示している。
薄苔―苔が薄く、見底できるものー正常、表証、虚証、邪気が弱い
厚苔―苔が厚く、見底できないものー裏証、実証、邪気が強い
潤苔―苔に潤いがあるものー正常、(津液の未損傷)湿邪
燥苔―苔が乾いているものー津液の損傷、陰液の損傷、燥邪
滑苔―苔の水分過多―水湿の停滞膩苔−苔ガねっとりし、剥離しにくいものー痰飲、湿濁
腐苔―苔がおから状を呈し、剥離しやすいものー食積、痰濁
剥落苔―苔の一部、またはすべてが剥落している物―陰虚、胃虚
舌診で判断するのは主に裏における寒熱と、水湿あるいは陰虚の違い、およびお血の存在であるが、一般的に言って舌質の変化は緩やかであるのに対し、舌苔の変化は速く、数日で苔が消失することもあり、また本来陰虚で痩薄舌であった上に、厚い舌苔が覆っていたのが、舌苔が消失すると、たちまち元の陰虚の舌に変わるといった現象もまま見られる。
聞診とは聴覚および嗅覚による診断法であるが、現代の聴診器を用いての聴診とはやや意味が異なり、聴覚と嗅覚で病人の呼吸音、発声、発語、口臭、体臭などの状態を観察し、正気の盛衰、邪気の消長を探るとともに、臓腑・経絡との関連を診察する方法です。
*呼吸と声音を聞く
健康人の呼吸は、ゆったりとして深く雑音がない。疾病時には、下記のような異常があれわれる。
1)短気…呼吸数が多く、途切れているもので、俗に言う“息切れ”のこと。実証が多く急性で、虚証は多く慢性病に見られる。
2)少気…呼吸が静かで浅く、微弱で言葉も少ない。久病(慢性病)で虚証です。
3)喘…呼吸困難のことで、口を開けて肩で息をする。
・実喘−発作が激しく、息が粗く、音が高い。呼出する時に気持ちがよいもの。
・虚喘−呼吸が弱く、音が低い、息を吸う時に気持ちがよいもの。
4)咳嗽…咳は声あって痰なきもの。嗽は、痰あって声なきもの、共にあるのが咳嗽。
5)嘔吐…嘔は声あって物なきもの。吐は物あって声なきもの。ともにあるのが嘔吐。胃の気の上逆で起る。
6)曖気…「げっぷ」のこと。満腹時に見られる。呑酸を伴う時は、宿食や消化不良による。そうではない時は脾胃や肝の働きが悪い時見られる。
7)逆…「しゃっくり」のこと。一般的には一過性の胃の気の上逆だが、久病に起こる時は注意を要する。
8)太息…嘆息ともいい、ためいきのこと。情志の鬱積による。
9)欠…「あくび」のこと、寒邪に冒された時や、労倦により腎が病んだ時に現れる。
10)噴嚏…「くしゃみ」のこと。風寒などにより、肺気が鼻に上衝した時に起る物です。
11)鼾声…鼾ともいい。「いきび」のこと。卒中昏迷時や、熱が盛んな時に現れる。
*発声と発語を聞く
健康な人の音声は、発声が自然で、なめらかで、音調もつやがある、のびやかです。疾病ときには以下のような異常を起す。
1)寒証 …一般にあまり話したがらない。
2)熱証 …一般によく話したがる。
3)虚証 …声が小さく、軽く。
4)実証 …言語がはっきりして、声が大きい。
5)譫語…高熱時や狂病などで、神気が常軌を失って発する言語錯乱(うわごと)のこと。実証のものを言う。語声が高く力があるが、話の筋は通らない。
6)呻吟…苦しみ、うめく物を言い、通常は痛みによる。
7)驚風証…小児が発作的驚いたように叫もの、発声は鋭く、驚き恐る。
*異常音を聞く
呼吸、発声・発語の異常とは別の異常音のことで、振水音と腹中雷鳴がある。
1)振水音…胃部を叩打したり、動揺させたときに「ピチャ、ピチャ」と音のするもので、胃内に水が貯まっていることを示す。
2)腹中雷鳴…腹部で「ゴロゴロ」という音がするもとで、腸が冷え、清濁を分別できないときに生じる物。
*臭いを聞く(嗅かぐ)
臭いを嗅ぎ分けるのも聞診の中に含まれている。 実際の臨床で役に立つことは少ないが、主なものを挙げておく。
1)口臭は歯槽膿漏か胃炎で、一般によく胃が悪いと言われる。
2)汗の臭いは健康人でも生じるが、長びいて酸っぱい匂いのするのは、湿熱が表に停滞していると考えられる。インフルエンザ等で発熱、発汗が続いた後によく経験する。
3)鼻臭は当然副鼻腔炎であろうが、悪性腫瘍も混在するので注意が必要であろう。身臭には腋臭もあるのでそれ程意味はもたない。
4)排泄物については悪臭と酸臭に分けられているが、概して言えば、悪臭は急性炎症に伴う臭いで熱とされ、酸臭あるいは生臭いにおいは、慢性炎症乃至は悪性腫瘍等によるもので寒性とされる。
臭いと五臓の関係
五臓五香(五臭)
肝 …… 羶(あぶらくさい)
心 …… 焦(こげくさい)
脾 …… 香(かんばしくさい)芳しい
肺 …… 腥(しょう)(なま臭い)
腎 …… 腐(くされ臭い)
*五声
病勢が進んだり、高熱を発するようになると、障害を受けた臓器により特徴的な発声をする。その声の特徴を聞き分けることによって、障害を受けた臓器を特定する。
1)肝の障害…呼―人をむやみに呼ぶ、大きな声を出す。病気の苦痛を強く訴える。
2)心の障害…笑・言―言語がはなはだ多くなり、平常、無口の者でも多く話すようになる。
3)脾の障害…歌―鼻歌を歌い、いつも歌を口ずさみ、歌うように話し掛ける。
4)肺の障害…哭(泣く)−内向的な性格となり、単純なことに泣きやすく、あるいは 泣きごとをいうようになる。
5)腎の障害…呻―うなり声を出す。ことにあって体力が伴わず、あくびが出やすくなる。
問診とは、患者やその家族に現在かかっている病気の状態や日常生活の様子などをたずねて、診断することである。
明代の名医張景岳の「十問歌」が、問診の範囲と順序を簡潔に要約している。「一に寒熱を問い、二に汗を問い、三に頭身を問い、四に便を問い、五に飲食を問い、六に胸を問い、七に聾、八に渇ともにまさに弁ずべく、九に脈色により陰陽を察し、十に気味より神見を章かにす。
△寒熱を問う寒熱とは悪寒発熱のことを言う。
・悪寒―寒気を感じ、温かくしても治らない。
・畏寒―寒がる。暖かくすれば治る。
・悪風―軽度の悪寒。
・発熱―体温が正常体温より上昇する。あるいは、全身、もしくは体の一部分(五心煩熱など)に発熱
を自覚する。(五心とは手のひら・足の裏・胸を指す)
寒熱のパターン
*悪寒発熱―悪寒と発熱共に出現―表証
・悪寒が重く発熱は軽いー風寒表証
・発熱が重く悪寒は軽いー風熱表証*但寒不熱―畏寒のみ出現―裏寒証 畏寒はするが、発熱はない
・(久病)+顔色蒼白、手足が冷たいー虚寒証(陽虚)
・(新病)+寒腹部冷痛(暖めると軽減)ー寒実証
*但熱不寒―発熱のみ出現―裏熱証
・壮熱―高熱が続き、悪熱して悪寒のないー裏実熱証
・潮熱―毎日、一定時刻になると発熱あるいは熱が高まる。一般的には午後に発熱するものが多い。
・微熱―長期(半月以上)にわたって軽度の発熱(38℃以下)が続く。あるいは、発熱を自覚するが実際の体温上昇は見られない―陰虚発熱、気虚発熱、お血
*寒熱往来―悪寒と発熱が交互に出現するー半表半裏証 (少陽病・瘧疾)
・少陽病の往来寒熱―悪寒と発熱が交互に出現(不定期)+胸脇苦満
・口が苦い・咽喉が乾燥・食欲減退・脈弦・瘧疾の往来寒熱―悪寒・戦りつと壮熱が交互に出現する。(発作は1日1回、または2−3日1回)+激烈な疼痛、口渇、多汗
△汗を問う
発汗の有無、時間、部位、量、兼証などについて質問する。汗とは、陽気の働きによって津液が蒸化し、体表に排泄されたもの。よく見られる汗症には次のものがある。
*表証の汗
・無汗―表実証(悪寒、発熱、苔薄白、脈浮緊)
・有汗―表虚証(悪寒、発熱、苔薄白、脈浮緩)
*裏証の汗
・自汗―気虚、陽虚 日中、普通にしていく汗がかく。活動時に一層ひどくなる。精神疲労、気力減退、息切れなどを伴うことが多い。
・盗汗―陰虚 寝ているだけ汗がかく(寝汗)不眠、手足のほてり、口や咽頭の乾きを伴うことが多い。
・大汗―裏熱亢盛、亡陽 大量に汗が出る。
大汗、高熱、煩渇、脈洪大―裏熱亢盛冷汗がしたたる+顔色蒼白、四肢厥冷、脈微―亡陽
・絶汗(脱汗)−病が危篤で、生命が途絶ようとしている時に出る大量の汗
*局所の汗
・頭汗―頭部に限って汗がかくー上焦熱蒸、中焦湿熱鬱蒸・半身汗―半身のみに汗がかくー中風
・手足心汗―手のひら、足の裏に汗がかくー陰経鬱熱
△飲食と味覚を問う
口渇の有無と飲水、空腹感、食欲と食量、口味(味覚)などを問う
*口渇 口渇とはのどが渇いて、水が飲みたがる。
・口渇多飲―熱証
・口渇、多飲、多尿―消渇(糖尿病)
消渇は、口渇が強く、水をよく飲み、多尿で、食べても太らない病態をいう。現代で言えば、糖尿病、尿崩症、腎不全、とくに糖尿病が考えられる。
・口渇少飲―口渇しても水は少量しか飲まない
・口渇はあるが、口を潤すと気持ちがいいが飲みたくない−お血
・口渇、飲むとすぐ吐き出す、小便不利―痰飲内停
*食欲と食量・食欲不振 虚証―脾胃気虚に多く見られる。顔色が悪く疲労倦怠などを伴う。
実証―湿邪困脾―湿が脾胃に影響し、脾の運化が滞と起る。胸悶、腹脹、身体の重さを伴うことが多い。
・厭食(えんしょく)、料理のくさいをかぐのもいやがる
・傷食―胃のつかえ、腹脹、腐食臭が上逆するなどを伴う。
・肝胆脾胃湿熱―油っこいものを嫌う、胸脇苦満を伴う。
・妊娠つわり―悪心、嘔吐を伴う、あるいは酸っぱいものを欲しがる。
・空腹感 消穀善飢―胃熱亢進―食欲が旺盛で多食、食べてもすぐ空腹になる。胃陰不足―空腹感があるのに食欲がないあるいは少食。口乾、舌質紅などを伴う。これは胃陰の不足により、虚熱が生じて起るものが多い。
*味覚口の中の異常な味覚をいう。
・口苦―熱証、とりわけ肝胆に熱がある場合に現れやすい。
・口淡―食べても味がしないものを言う。−脾胃の気虚や胃寒に現れやすい。
・口甘―口の中が甘くまたは粘るものはー脾胃の湿熱に現れやすい。
・口塩辛いー腎病に現れやすい。
・口酸―口の中が酸っぱいのは、食積に現れやすい。
五臓と五味の関係 肝―酸 心―苦 脾―甘 肺―辛 腎―鹹
△二便を問う
ここでは主として二便の性状、回数、量の多少などを質問する。
大便の形成には、大腸および脾、胃、小腸が関係するが、肺、脾、腎による津液代謝の働きが妨げられて、大便の異常が起ることが多い。
大便の異常
*秘訣―便秘のこと。大便が乾燥して硬くなり、排出が困難になる。あるいは、排便回数が減少する。
・熱証(胃腸に熱)、実証ー便秘に潮熱、口渇を伴う。
・気虚ー便意はあるが排便無力で、大便は硬または軟である。
・血虚ー大便は硬く、兎糞状を呈する。
・腎陽虚ー便秘に四肢の冷え、夜間頻尿などを伴う。
*泄瀉(せつしゃ)―下痢のこと
泄―大便が稀薄(きはく)で、出たり止ったりするもの。瀉―水様性の下痢を瀉という。
・虚証―慢性の下痢で、軽度の腹痛(喜按)を伴う。
・実証―急性の下痢で腹部の膨満感や腹痛(拒按)を伴う。
・寒証―便が水様で、悪臭がないもの。
・熱証―黄褐色の水様便で悪臭があるもの。
*五更泄瀉(ごこうせつしゃ)腎泄ともいい、夜明け前に下痢をする特徴です、鶏鳴下痢ともいう。脾腎陽虚による物が多い。
小便の異常
・尿量の増加―寒証、陽虚、消渇にも見られる。
・尿量の減少―熱、汗、下痢などにより津液を損傷すると起こる。また、肺、脾、腎の機能失調により起る者もある。
・頻尿―尿量が少なく、色が濃く、急迫するものはー下焦の湿熱。―尿量が多く、色が清であるものはー腎陽虚。
・小便自利―排便の回数が多く、尿量の多い者。一日十回以上。
・小便不利―排便の回数が少なく、尿量の少ない者。一日二−三回、排尿困難の総称。
・小便閉―小便が出難いものをいう。
・りゅう閉―排尿困難に下腹部脹満をともなうもの。前立腺肥大に見られる。
・遺尿―遺溺。尿床、寝小便や尿失禁をいう。実症―湿熱、おけつ、結石によるものがある。
虚証―脾肺気虚、腎陽虚による物が多い。
△疼痛を問う
痛みは臨床上によく見られる自覚症状です。様々の疾患に現れる。経絡走行上にある痛みは、経絡病証であることが多い。その場合は、走行している経絡の異常としてとらえるが、中にも臓腑病証によるものもある。痛みについては、その部位、性質、時間などを尋ねる。
*痛みの病機
・実証―外邪感受、気滞血、痰湿凝滞、食積、虫積により経絡阻閉、気血運行失調―不痛則痛。
・虚証―気、血、精などの不足により臓腑、経絡失養―不栄則痛。
*痛みの部位
身体の各部位はすべて一定の臓腑や経絡と連絡しているので、疼痛部位を知ることは病変のある臓腑経絡を知るために意義がある。
・頭痛ー頭部の部位に基づく頭痛の分類は次の通りです。
太陽経頭痛―後頭部から項(うなじ)背部にかけて痛む
陽明経頭痛―前額部あるいは眉間にかけて痛む
少陽経頭痛―両側または一側の側頭部が痛む厥陰経頭痛―頭頂部が痛む
・胸痛ー胸に心、肺があり、狭心症などにより胸痛が起りやすい。
痰濁によるー胸悶、咳を伴う血ー胸悶、心悸を伴う
陽虚―四肢の冷え、自汗、顔色蒼白など
・脇痛
脇部には肝胆の二経が分布している。したがって、肋間神経痛など、この部位の病変は肝胆の病変と関係が密接です。気滞、血、湿熱、懸飲などにより起る。
・腹痛腹部は大腹、小腹、少腹の三つに分類される。
大腹痛―臍より上部を大腹といい、脾胃と関係がある。
小腹痛―臍より下部を小腹といい、腎、膀胱、大腸、小腸及び子宮と関係がある。
少腹痛―小腹部の両側を少腹といい、足厥陰肝脈と関係が密接です。これらの疼痛の部位を確認することにより、関連する臓腑を推測することができる。
・腰痛ー腰は腎の府です。腰痛は腎の病変によく見られる。
・四肢痛
痺証によく見られる。痺証とは筋肉や関節の痛みを特徴とする症候で、風・寒・湿・熱邪が四肢の経脈に阻滞することによって気血の流れが悪くなって生じる。
・風痺―遊走性の痛み寒痺―劇痛、冷えると増悪し、暖めると軽減する。
・湿痺―固定性の痛み、重痛(重だるい)
・熱痺―熱痛、関節部が赤く腫れ腎虚―足のかかとが痛む
*痛みの性質ー痛みを引き起こす病因や病証が異なると、疼痛の性質も異なる。したがって痛みの性質を知っていれば、痛みの原因と病証を知るのに役に立つ。
名称 痛み方 よく見られる病証
・脹痛 脹っている、膨満感を伴う痛み 気滞
・刺痛 針で刺されたような痛み 血阻滞
・酸痛 だるい痛み 虚証、湿証
・重痛 重だるさを伴う痛み 湿邪阻滞
・冷痛 寒冷感を伴う痛み 寒証(実寒、虚寒)
・灼痛 灼熱感を伴う痛み 熱証(実熱、虚熱)
・絞痛 絞められるような劇痛、疝痛 寒証、お血、結石
・隠痛 しくしくといつまでも痛む 気血不足
*痛みの喜悪
・拒按―疼痛部位に触ると、疼痛が増悪するー実証
・喜按―疼痛部位を触ると、疼痛が軽減または消失するー虚証
・喜温―温めると疼痛が軽減するー寒証
・喜冷―冷すと疼痛が軽減するー熱証
△月経を問う
月経については、月経の周期、日数、月経の量・色・質及びそれに伴う症状を問う。また必要に応じて、最終月経の期日、初経や閉経の年齢を尋ねる。
*月経周期(経期)
・月経先期―周期が八−九日以上早まるー熱証、気虚による。
・月経後期―周期が八−九日以上遅れるー寒証、気滞、血など
・前後不定期―周期が乱れ、早くなったり遅れたり周期の定まらないー肝鬱・脾腎両虚、お血など。
*月経血の量(経量)
・経量過多―血熱、気虚などにみられる。
・経量減少―血虚、寒証、お血などにみられる。
・閉経(無月経)―月経の停止が3ヶ月を越え、且つ妊娠していないものを言う。血虚、血寒証などにみられる。
*月経の色と性状(経色、経質)
正常月経の色は紅で、経質は薄くもなく、濃くもなく、血塊はない。
・淡紅色で経質の稀薄なものー虚証
・深紅色で経質の濃いものー血熱、実証
・紫暗色、または暗好色で血塊のあるものー寒証、お血
*月経痛・月経前または月経中に小腹部に脹痛ー気滞お血
・小腹部に冷痛があり、温めると痛みが軽減するー寒証
・月経中または月経後に小腹部に隠痛があり、腰がだるく痛みー気血両虚
△睡眠を問う
睡眠の状況を問う
*不眠―寝つき悪い、眠りが浅く、すぐ目が覚める、一睡もできない、夢ばかり見る。
・心悸、健忘、疲労倦怠を伴う不眠―心脾両虚
・心煩、多夢を伴う不眠―心腎両虚
・胸悶、腹部脹満を伴う不眠―食積内停
・煩躁、驚悸、胸悶、多痰、口苦を伴う不眠―胆鬱痰擾
*嗜眠―ひどい眠きがする、いつも知らぬ間に入睡してしまう
・疲れて眠くなる、頭や体が重い、悶―痰湿困脾
・食後眠くなる、体が衰弱する、食欲減退、無気力―脾気虚弱
切診とは脈診と按診を含む。体表を触ることによって病状を把握する。
1.脈診 脈診は、西洋医学では主に心拍数を診るだけですが、中医学では、脈の性状により、病因を推察したり、発熱の度合、予後の判定、病が進行中か回復中かなどの判断をしたり、手技や治療法まで選定する重要な診断法です。
△脈診の部位 脉診は診断に役立てる方法ですが、どの部位の拍動を診るかについては、時代によって違いがある。
*三部九候の診断法
歴史的に見て最も古い脈診法で、『素問』の「三部九候論篇」に見られるが、身体を上・中・下に分け、各々三ヵ所の経穴における浮取、中取、沈取によって脈の拍動の強弱を調べ、比較検討する方法である。
上 … 人迎(胃経)…………外頚動脈 胃気を見る
中 … 寸口(太淵~肺経)… 橈骨動脈 十二経を見る
下 … 衝陽(胃経)… 足背動脈 胃気(後天の気)を見る
太谿(腎経)… 後脛骨動脈 腎気(先天の気)を見る
*寸口3部の脈
手首の橈骨動脈を寸・関・尺の3部に分けて脈を診る。橈骨茎状突起の内側を関、そこより手首側を寸、肘側を尺という。それぞれの部位に現れた脈を関脈、寸脈、尺脈という。
寸口3部の脈と臓腑の関係
左手 部位 右手
心(小腸) 寸 肺(大腸)
肝(胆) 関 脾(胃)
腎(膀胱) 尺 腎(命門)
・正常の脈象
正常の脈象(平脈)の特徴は有胃、有神、有根の三つに表現される。
有胃―脈位は浅くも深くもなく、脈拍は速くも遅くもなく、律動が規則正しい。
有神―ゆっくりとしていて、しかも有力。
有根―尺脈を沈取した時、十分力強い。
・病脈と主病
脈拍の遅速
名称 脈形 主病
遅脈 脈拍は遅い、60回/分以下。 遅で有力ー実寒証 遅で無力ー虚寒証
数脈 脈拍は速い、90回/分以下。 速く有力ー実熱証 速く無力ー虚熱証
脈の強弱
名称 脈形 主病
虚脈 寸、関、尺いずれにも無力の脈を感じる、強く按えると、脈が消えそうになる。 虚証
実脈 寸、関、尺いずれにも有力の脈を感じる、軽く按えても、強く按えても強い拍動を感じる 。実証
脈の深浅
名称 脈形 主病
浮脈 脈を軽く抑えると拍動が強く感じるが、強く抑えると弱く感じる。 表証
沈脈 脈を強く抑えないと拍動が感じられない。 裏証
脈の動態
名称 脈形 主病
滑脈 脈の流れが滑らかで、珠が盤上をころがるようである 痰飲、水湿、食滞、実熱証
渋脈 脈の拍動が滑らかでなく、小刀で竹をけずるようである、滑脈と反対の脈 精血不足、気滞血お
脈の形態
名称 脈形 主病
細脈 糸のように細いが、指に拍動がはっきり感じとれる脈 血虚、陰虚
濡脈 細く柔らかい脈で、脈位が浅表部にある 軽く押さえただけで拍動が感じる 精血不足、気血不足、湿病
弱脈 細く柔らかい脈で、脈位が深部にある、 強く押さえないと拍動が感じ取れない 気血両虚
微脈 極度に細く柔らかい脈、指に拍動がはっきり感じ取れな 陽気衰弱(重篤い)
洪脈 ゆったりと大きい脈で、拍動が力強い。 熱盛
脈の緊張度
名称 脈形 主病
弦脈 直線的で力強い脈(弾力に富み琴の弦を按えるよう 肝胆病、痛証、痰飲
緊脈 緊張して力強い脈(繩なわをよるよう) 寒証、痛証
緩脈 脈拍は60回/分前後、緩慢で弛緩した脈 脾胃虚弱、湿病
緩脈は健康な人にも見られるが、その場合はゆったりと安定した脈象を呈する。
脈のリズム
名称 脈形 主病
促脈 脈拍が速くなって、不規則的に止り、短時間で回復する 陽熱亢盛、気滞血お
結脈 脈拍が緩慢になって、不規則的に停止し、短時間で回復する 陰盛気結、寒痰血お、陰寒内盛 心陽虚
代脈 脈拍が緩慢になって、規則的に止り、間欠時間がわりと長い 臓気の衰退・痛証
熱証に偏るのが促脈。寒証にかたよるのが結脈、これに対し、寒熱の別なく極度の虚損によって出現するのが代脈。
28種の脈象には、ほかに、散脈、脈、伏脈、牢脈、疾脈、動脈、革脈、長脈がある。
2.按診
按診とは、主に腹診の事を指す。中国より主に日本で研究されて普及した診断法である。 これにも脈診法と同じように総診法と単診法とがあり、総診は手指を揃えて伸ばし、指先部の指腹あるいは手掌を用いて軽く皮膚の表面を軽く触れ、時には強くあんじ、皮膚の温度、湿潤と乾燥度、浮腫や腹水の有無、消化管の動きや腹筋の緊張度や硬結、圧痛などを総合的に診る。
△平人無病の腹 腹部全体が温かく、適当の潤いがあって、硬からず軟らかからず、ちょうどつきたての餅のようなであり、また上腹部が平らで臍下がふっくらして、手ごたえのあるのがいいとされる。
△疼痛
虚証―喜按―押えると痛みが軽減する。
実証―拒按―押えると痛みが増悪する。
△気脹と水鼓
気脹―腹部脹満、叩くと太鼓のような音がする。
水鼓―腹部脹満、押えると水袋のよう+排尿困難
△腫瘤(しこり)
(か)、聚(しゅう)−腹部に腫瘤が現れ足り、消えたり実体のない腫瘤、押えても触らず、痛みの部位は不定―気滞
(ちょう)、積(せき)−腹部に腫瘤があり、押えると硬く、推しても動かない。痛みの部位は固定的―お血
宿便―左少腹部に疼痛があり、押えると索状のしこりに触れる。
腸癰−右少腹部に疼痛があり、強く押さえて、突然手を離すとするどく痛み−急性虫垂炎
△五臓の腹診 「難経」:十六難では、五臓の病変を診る腹診法として以下のように診る部位を割り当てている。
「肝病は、臍の左に動気あり、これを按せば硬く、もしくは痛。
心病は、臍の上に動気あり、これを按せば硬く、もしくは痛。
脾病は、臍の当りて動気あり、これを按せば硬く、もしくは痛。
肺病は、臍の右に動気あり、これを按せば硬く、もしくは痛。
腎病は、臍の下に動気あり、これを按せば硬く、もしくは痛。」
八綱とは、表・裏・寒・熱・虚・実・陰・陽を指し、八綱弁証は中医学の特徴である弁証論治の基礎の一つとされる。四診より得られた情報に基づき病位の深浅、病邪の性質及び盛衰、人体の正気の強弱等を分析して、八種類の証候として表すものである。
表裏
表裏とは、病変部位と病勢を表す綱領である。表とは比較的病が浅い部位〔体表、皮毛、病の初期〕にあることをを示し、裏とは比較的病が深い部位〔血脈、臓腑、病の慢性化〕にあることを示している。
★表証とは六淫の邪が体表から体内に侵入するときに起こり、発熱、悪寒、関節痛等を伴い、浮脈を示すもので外感病の初期にみられる。
★裏証は病因、範囲ともに幅広く、多種多様な病状を含んでいる。脈は主に沈脈の傾向があるが多様であり、舌証も様々である。
△表裏の鑑別は、まずは感冒等の初期を表として捉えて、その他を裏とします。
寒熱
寒熱とは疾病の性質を表す綱領である。寒証と熱証は身体の陰陽の盛衰を反映したもので、陰盛あるいは陽虚は寒証として、陽盛あるいは陰虚は熱証として現れる。
★寒証とは寒邪を受けたり、陰盛陽虚により現れる。四肢の冷え、分泌物清冷〔尿、痰等〕、寒がる等の症状を伴い、遅脈や緊脈、舌質淡白、舌苔白等がみられる。
★熱証とは熱邪を受けたり、陽盛陰虚のために身体の機能活動が亢進して現れる。熱がり冷たいものを好む、顔面紅、小便短赤、分泌物が黄色く粘る等の症状を伴い、数脈、舌質紅、舌苔黄等がみられる。
△寒熱の鑑別は問診である程度予測ができ、舌診、脈診等で確認していくことで鑑別します。しかし臨床上は慢性化した疾患や身体の深部〔衛気営血弁証〕の疾患では寒熱が交錯し、単純に舌診、脈診に頼れない場合があります。寒証の治療は灸法を用いることが多く、熱証では針が中心になります。寒熱の診断を誤った場合、特に熱証に灸法を用いたときには症状が悪化する場合があるため注意を要します。私も治療に患者さんから灸を頼まれることがありますが、陰虚体質の方には、その旨を説明して断ることもあります。〔中国で用いられる棒灸や隔物灸を指しています。〕
虚実
虚実とは正邪の盛衰を表す綱領である。虚証と実証は身体での正気と邪気の盛衰の状況を反映し、正気不足は虚証として、邪気が盛んな場合は実証として現れる。
★虚証とは正気が虚弱なため現れる病理的な状態で、倦怠、脱力感、息切れ、自汗等の症状を伴い、虚脈、舌質淡白胖嫩・歯痕等がみられる。
★実証とは外邪を感受したり、体内の病理産物による病理的な状態で、腹脹、胸悶、便秘、小便不利等の症状を伴い、実脈、舌苔厚膩等がみられる。
△虚実の鑑別も問診である程度予測でき、舌診、脈診等で確認していくことで鑑別できます。寒熱と同じく慢性疾患等では虚実が交錯するために、単純に舌診・脈診だけで判断するのは危険があります。虚実の鑑別は、特に針灸の手技や刺激の強さに直結するために、誤った場合は針あたり〔治療後だるくなる等〕や一時的に痛みが強まる等副作用がでます。よく好転反応等と言われますが実際は刺激過多で起こるものであり、予想外のこうした反応は虚実の鑑別ができていないからです。治療のために敢えて強刺激を与える場合は、先に患者さんに話しておくと逆に信頼されます。実証の方に補法を行った場合は効果が出ない程度ですが、虚証の方に寫法を行った場合は副作用が大きくなります。
陰陽
陰陽とは八綱辨証の総綱であり、表・熱・実を総合して陽とし、裏・寒・虚を総合して陰としている。臨床上では表裏・寒熱・虚実の六綱として分類されることが多いが、高熱による大汗や激しい嘔吐、出血等では亡陰、亡陽といわれ、危険な徴候である。
臓腑弁証とは,各臓腑の生理機能にもとづき,疾病において現れる各症状を分析し,帰納を行い,その病理機序を明らかにして,病変部位を判断する方法である。中医学には数多くの弁証方法があるが,どの方法においても,疾病の部位を明確にするためには臓腑という視点が必要となる。例えば八綱弁証の1つに陰虚証があるが,これは心・肺・肝・腎・胃という各臓腑に生じる病証であり,治療においてはどの臓腑の陰虚なのかを明確にしなければならない。臓脈弁証は,臨床上きわめて実用性が高く,弁証体系にあっては重要な位置づけがなされている。
臓腑間および臓腑と各組織器官とのあいだには密接な相関関係かある。したがって,臓腑弁証を行う場合には,一臓一腑の病理的な変化を見るだけでなく,臓腑間の関係と影響にも注意しなければならない。
臓腑弁証には,臓病弁証・腑病弁証・臓腑相関弁証の3つがあるが,このなかでは臓病弁証が臓腑弁証の中心的な内容となっている。臓腑間には表裏の関体があり,病理上もしばしば相互に影響しあう。
心・小腸病辨証
虚証では長期に渡る病気や高齢、先天の気不足、思慮の過度により起こるものが多い。実証では痰阻、火擾〔精神錯乱の状態を起こす〕、寒凝、お滞、気鬱等が多い。
肺・大腸病辨証
肺の虚証では気虚と陰虚が多く、実証では風寒燥熱等の外邪の侵襲や痰湿阻肺によりおこるものが多い。
脾・胃病辨証
脾の病証には寒・熱・虚・実証があり、脾病では陽気虚衰による運化失調から、水湿や痰飲が内生したもの、統血機能が失調した出血の病証がよくみられる。胃病では受納・腐熟機能の障害、胃気上逆等がよくみられる。
肝・胆病辨証
肝の病証には虚証と実証があり、虚証は肝陰、肝血の不足といった陰病の傾向が多く、実証では気鬱に代表される陽亢が多い。胆病の多くは実証で、口苦、黄疸、驚悸、不眠等といった症状があらわれる。
腎・膀胱病辨証
腎については、人体の成長・発育の根源であり、臓腑機能活動の中心とされる。腎の病症では臓が損耗する一方のため虚証が多い。膀胱病では湿熱証が多く見られる。
臓腑兼証
人体の各臓腑間は生理上も密接に関係しているため、ある臓腑が発病すると他の臓腑も影響を受ける場合がある。同時に二つ以上の病証がみられるものを臓腑兼証という。
気血津液辨証とは臓腑学説中の気血津液理論を用いて、気血津液の病変を分析する診断方法である。つまり〔気病、血病、気血同病、津液〕を弁別する。
気病辨証
気の病症は非常に多いが、臨床上常見するものは主に気虚、気陥、気滞、気逆の4種がある。
1.気虚証
気虚証とは身体の機能低下により現れる証侯である。久病、過労、高齢等で体が弱ることにより起こる。
息切れ、精神疲労、眩暈、自汗、動くと症状が悪化等。舌質淡・苔白、脈虚・無力
2.気陥証
気陥証とは気が虚して昇挙無力となるために、気が下陥した証侯である。気虚証の進行や労累、ある一臓の気が損傷して起こる。
眩暈、息切れ、倦怠、長期に渡る下痢、腹部の墜脹感、脱肛、子宮脱、内臓下垂〔西医〕等。舌質淡・苔白、脈弱
3.気滞証
気滞証とは人体の特定の臓腑や部位の気機が阻滞し、運行不良となる証侯である。気滞の原因は大変多く、七情、飲食、外邪の感受等が関与している場合が多い。
脹悶、疼痛
4.気逆証
気逆証とは気機の昇降失調により、気が上逆しておこる証侯である。臨床上は肺気、胃気、肝気の上逆が常見される。
肺気上逆 咳嗽、喘息
胃気上逆 しゃっくり、ゲップ、悪心、嘔吐
肝気上逆 頭痛、眩暈、昏厥、吐血等
血病辨証
臨床上常見するものには主に血虚、血お、血熱、血寒の4種がある。
1.血虚証
血虚証は脾胃虚弱による生化不足、急慢性出血、七情過度による陰血損耗などによりおこる。
顔色が悪く白または萎黄、唇色は淡白、爪甲が白い、眩暈、目のかすみ、心悸、不眠等。舌質淡・苔白、脈細無力
2.血お証
寒凝、気滞、気虚、外傷等により血行が悪くなり、経脈上や臓腑等に血が停滞しておこる証侯。
刺すような痛み、拒按、夜間増悪、腫隗、顔色・唇・皮膚等が紫暗色、閉経や生理に血隗を伴う等。舌質紫暗またはお斑、お点、脈細渋
3.血熱証
臓腑の火熱が盛んになり、熱が血分に入ることでおこる証侯。煩労、飲酒、七情等が原因になる。
吐血、尿血、じく血〔鼻出血〕、咳血等の出血症状、舌質紅絳、脈弦数
4.血寒証
指などの局部の脈絡が、寒凝気滞のために血行障害を引き起こした証侯。寒邪の感受等が原因。
手足の疼痛、皮膚が紫暗色で冷たい、冷えを嫌い温めると疼痛は軽減、少腹部の疼痛、生理の遅れや経色紫暗、血塊等。舌質淡暗・苔白、脈沈遅渋
気血同病辨証
気と血は密接に関連している為、疾病が生じると気血相互に影響を与える。
1.気滞血お証
気機が鬱滞して血行が阻滞し現れる証侯。情志の問題等から肝気の鬱滞が長引いて起こる場合が多い。
胸脇脹悶、放散痛、イライラ、脇下痞塊、刺痛拒按、婦人では閉経や痛経、経色紫暗、血塊等。舌質紫暗あるいはお斑、脈渋
2.気虚血お証
気虚のため血を推動する力が無力となり、血行が滞り現れる証侯。久病による気虚から起こる。
顔色淡白または暗い、倦怠乏力、息切れ、胸脇部に刺痛や拒按等。舌質淡暗あるいは紫班、脈沈渋
3.気血両虚証
気虚と血虚が同時に存在する証侯で、久病により気虚となり生血機能が低下する場合や、出血により気血が同時に失われた場合等がある。
眩暈、息切れ、脱力感、自汗、顔色淡白または萎黄、心悸、失眠等。舌質淡白かつ嫩、脈細弱
4.気不統血証
気虚により血液を統摂できないためにおこる出血を伴う証侯。久病等による気虚が原因となる。
吐血、血便、皮下お斑、崩漏、息切れ、倦怠脱力、顔色白く艶がない、舌質淡白、脈細弱
5.気随血脱証
大量出血時におこる気脱の証侯。外傷や内臓破裂等が原因で重篤な症状である。
多量の出血と共に顔面蒼白となる、四肢厥冷、大汗等。舌質淡白、脈微細または浮大散
津液辨証
津液の病証は一般に津液不足と水液停聚〔停滞〕に分けられる。
1.津液不足
津傷ともいわれ、津液が少ない証侯。胃腸虚弱や久病により津液の産生が減少したり、内熱や大汗、嘔吐、下痢等で津液を消耗することが原因となる。
口や咽喉の乾燥、口唇が乾燥して割れる、皮膚がカサカサになる、小便短少、大便干結等。舌質紅、少津、脈細数
2.水液停聚
外感六淫、内傷七情が、肺・脾・腎の水液の輸布や排泄作用に影響して起こる。
1)水腫 陽水 頭面部の浮腫で一般に眼瞼から始まり全身に及ぶ、小便短少、風邪の症状を伴う舌苔薄白、脈浮緊、あるいは咽喉脹痛、舌質紅、脈浮数
陰水 浮腫は腰部以下に著しい、小便短少、腹脹、便溏、顔色が悪い、下肢の冷え等。舌質淡・舌苔白、脈沈、あるいは舌質淡胖・舌苔白滑、脈沈遅無力
2)痰飲 痰証 咳喘喀痰胸悶、悪心、嘔吐、痰涎、眩暈、痰鳴、半身不随、喉中の異物感等。舌苔膩、脈滑等
3)飲証 咳嗽、胸悶、多量の薄く白い痰を吐く、痰鳴等〔特に痰証とは吐く痰の質が異なる〕舌苔白滑、脈弦等
病因辨証とは疾病の発生原因を、主に六淫、七情、飲食労逸、外傷の4つに分類したものである。
中医学では疾病の病因を主に上記の4つとするのですが、ここでは特に六淫を取り上げます。六淫には風・寒・暑・湿・燥・火があり、外感病を引き起こす原因となります。これらは季節や気候、環境と関与し、単独または2つ以上が絡んで疾病を引き起こす原因となります。七情からの内生五邪〔風・寒・湿・燥・火〕や飲食労逸、外傷も六淫を含めて互いに密接に関与する場合があり、特に慢性疾患では複雑な証侯を示します。
1.風淫証侯
発熱、悪風、頭痛、汗が出る、咳嗽、鼻閉、鼻汁、舌苔薄白、脈浮緩
2.寒淫証侯
悪寒、発熱、無汗、頭痛、身体痛、咳喘、四肢厥冷、腹痛、泄瀉等、苔薄白、脈浮緊
3.暑淫証侯
①傷暑 悪熱、眩暈、汗が出る、口渇、精神疲労、尿黄、舌質紅、苔白あるいは黄、脈虚数
②中暑 発熱、昏倒、汗が止まらない、口渇、呼吸が荒い、舌質紅絳で乾燥、脈数
4.湿淫症候
頭重感を伴う頭痛、関節部の痛みやだるさ、屈伸不利、体が重だるい、舌苔白、脈濡滑
5.燥淫症候
発熱、軽い悪寒・悪風、無汗、咳嗽、喉や皮膚の乾き、鼻閉、舌質は乾燥、苔黄、脈浮数
6.火淫症候
高熱、口渇、面紅、目赤、煩躁、譫妄、吐血、鼻出血、発疹等、舌質紅絳、脈洪数か細数
経絡は気血などの通路であると同時に病邪の侵入する路でもあり、また逆に内臓の病変を体表に伝達する路でもある。経絡弁証とは,体表の経絡およびそれが所属する臓腑に関連する臨床所見にもとづいて,疾病がどの経あるいはどの臓腑にあるのかを分析し,判断する弁証方法である。
1.手太陰肺経
肺経が走行している上腕、前腕部、親指の部分に現れる症状として、上腕・前腕の内側前面部痛、欠盆中痛など。肺経に関連する病証として、咳喘、息切れ・胸悶・咽喉腫痛などがある。
2.手陽明大腸経
3.足陽明胃経病症
4.足太陰脾経病症
脾経が走行している部位(足親指、下肢内側、腹部、胸部、腋下部)や連絡している部位(舌、心下部)に現れる症状として、股・膝内側部の腫痛や冷え、母趾の麻痺等、また脾経に関連する病証として、腹脹、体の重だるさ、泥状便などがある。5.手少陰心経病症
6.手太陽小腸経病症
7. 足太陽膀胱経病症
8. 足少陰腎経病症
9.手蕨陰心包経病症
10.手少陽三焦経病症
11.足少陽胆経病症
胆経の走行している側頭部・腋下部・腰側面・下肢外側面に現れる症状として、胸・脇・肋・髀・膝外側・脛骨外側痛、足第四趾の麻痺等。また胆経に関連する病証として、口苦・ため息をつく、片頭痛などがある。
12. 足蕨陰肝経病症
東洋医学(中医学)は3千年以上の歴史を有する医学です。科学的理解を前提とする西洋医学とは異なり、病態・病因の追求よりは、病人に対する最適の治療法を優先的に考えていくのです。古代から伝えられており、豊富な臨床経験や中国伝統文化を基にした医学体系で独特な治療法を持つ伝統的な医学です。西洋医学だけでは得られないすばらしい治療効果が得られることがあります。勿論、西洋医学はすばらしい医学ではあることは間違いありませんが、東洋医学をプラスすることによって、更に飛躍した新しい医療が生まれ、患者さんのQOLの向上のために大いに役立つようになることが確信できます。ここで東洋医学の特徴をいくつか取り上げてみます。
◎東洋医学を生み出した思想的特徴
◎人と自然についての見方
人は生きていくために必要な食物も空気も,すべて自然界に頼っている。これはすべて,天と地の産物である。このことから人間の生命活動の源泉は,天と地からなる大自然(大宇宙)にあるということができる.このことを「黄帝内経・霊枢」は,「人と天地は相応ずるなり」といい,また「素問」では,「天は人を食なうに五気を以てし,地は人を食なうに五味を以てす」といっている。いずれも「気の思想」や,「天人合一思想」,「天地人三才思想」に基づいている。
◎東洋医学の特徴的な思想
天人合一思想 | 人(人間・小宇宙)の形と機能とが、天(自然界・大宇 宙)と 相応していると見る思想。 |
天地人三才思想 | 天の陽気と地の陰気とが調和することによって、人の気 が生成されるとする思想。 |
心身 一如 | 人の心と、身体とは互いに影響しているという考え方。 現代医学の精神・身体二元論に対して、心と体は相互に密接に関連しているものとして捉え、体だけでなく心も一緒に治ていく。 心を治すことによって体がよくなり、体を良くすることに よって心もよくなる。心身全体の調和・向上こそが治療の目標です |
未病治 | 本格的な病になる前に対処しようとする考え方。 |
※天地人三才思想とは
「天」の陽気と「地」の陰気とが調和することによって、「人」の気が生成されるとする思想。
天:上部、浅い位置・・・天の陽気と感応
人:中部、中位の深さ・・・天地陰陽の中和の気と感応
地:下部、深い位置・・・地の陰気と感応
三才の概念は、人体の三焦理論、脉診法、刺鍼の深さなどに関係している。
陰陽論は、東洋医学の理論の中で最も基本的な理論になります。その理論とは「万物は対立した性質をもつ2つの要素にわけることができる」というものです。そしてその2つの要素というのが「陰」と「陽」の2つになります。
例えば、陰である夜の月と、陽である昼の太陽などがその例です。
陰は静かで暗く、冷たい状態を象徴し、その本質は内向きの力が働く凝集の性質となります。
一方、陽は動的で明るく、熱い状態を象徴し、その本質は外向きの力が働く拡散の性質になります。人間では休養、睡眠などの静の活動が陰にあたり、活動、興奮などの動の活動が陽にあたります。
陰陽論では、生物はこの陰陽が流動的に変化しながら、バランスを保っており、このバランスが崩れると、体に不調が生じるという考え方です。さらに陰陽の運動は、万物を生み出す原動力であるとされています。つまり、陰陽の運動の消失は死を意味します。
以下に陰陽の性質をまとめます。
陽の性質 | 陰の性質 |
・外に向かう | ・内に集まる |
陰陽論を医学に応用する
陰陽論は地球中におけるさまざまな現象の説明にも使われますが、人体の組織構造や生理機能、病気の発生や進行の説明、診断や治療の決定などにも応用されます。
◎組織構造
すべての人体組織は陰と陽の対立した部分に分けることができます。例えば体腔より内、腹、臓は陰であり、体腔より外、背中、腑は陽であるとされます。
このように人体組織は、上下、内外、表裏、前後の各部分で陰陽の対立と統一が存在します。
ちなみに臓とは肝、心、脾、肺、腎の5臓を指し、腑とは胆、胃、大腸、小腸、膀胱、三焦の6腑を指します。このことに関しては、蔵相学説にてまた説明します。
◎人体の生理機能
機能は陽であり、物質は陰であります。人体の生理活動は物質に基づいており、物質の運動がなければ生理機能は起こりません。そして逆に、生理活動の結果として、物質の新陳代謝が行われます。
このように、機能と物質の関係においても陰陽が互いに依存し、影響し合います。つまり、陰陽が互いを利用できなくなり、分離してしまえば人の命も終わってしまいます。
◎病理的変化
陰陽はお互いに影響を与え、一方が強くなるともう一方は弱くなります。そして、ある病理的な変化はこのような相互作用によって起こる、陰陽のバランスの崩れによって説明されます。
陰陽のどちらかが過剰になり過ぎても、過少になり過ぎても病気になり、病理的変化が起こります。ほとんどの病理的変化は、このように陰陽どちらかの過剰か、過少によって説明されます。これは、疾病の病理的変化がいかに複雑であっても、すべて陰陽のバランスの崩れによって説明できることを意味しています。
◎診断
先ほど述べたように、病気の発生と進行は、どんな病気であれ陰陽のバランスの崩れで説明ができます。東洋医学の診断では、最初に陰と陽に分けることによってその病気の本質を知り、複雑な症状を分かりやすくします。
また、全体を陰陽で大きくまとめるだけでなく、診察の結果を細かく分析するためにも使われます。例えば、顔色や脈など望・聞・問・切などの四診も結果を陰陽によって細かく分けられています。
望とは視診、聞とは聴診、問は問診、切は触診など実際に体に触れる検査のことを指します。基本的に診断は、この四診の結果を総合して行われます。
◎治療
この陰陽論を用いた診断は、そのまま治療にも応用します。その応用方法は簡単です。陰陽論では病気が発生し、進行する根本原因は陰陽のバランスの崩れだとしています。そのため、陰陽で不足している分を補い、余っている分を捨てるといった方法でバランスの調整を行います。
東洋医学の五行とは
五行説とは、陰陽論と並んで東洋医学の中でも基本的な理論の1つです。五行とは自然界の森羅万象を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素に分類したもので、それらはお互いに影響し合って宇宙は成り立っています。五行説はさらにそれぞれが持つ性質やその関係性までを説いたものです。
人体の生理や病理に関わる様々な事柄にもその理論が当てはまり、東洋医学の治療法においてはとても重要な考え方です。「五臓六腑に染み渡る」といいますが、この五臓というのは人体の臓器を5つに分類したもので、東洋医学においては五行の中でも最も基本となります。木には肝、火には心、土には脾、金には肺、水には腎といった臓器がそれぞれ当てはまります。東洋医学では主に五臓のどこに病があるかを、五行学説に基づいて診断し、治療に当たります。
〇五行の性質
五行の5つの要素はそれぞれ異なる性質を持ち、同じ行に属するものは同じ性質を持ちます。
(木の性質)
木には成長してゆく草木のように生長、伸長、柔軟といった性質を持ちます。
五方(方角)は東(太陽の昇る方向)、五季(季節)は春という様に物事の始まりを表します。
(火の性質)
火には炎のように熱を持ち上昇してゆく性質を持ちます。
五方は南、五季は夏という様に太陽(陽の気)の作用が最大のものです。
(土の性質)
土は農作物を育てる大地のように何かを生み出したり、受け入れたりする性質を持ちます。
五方は中央、五季は土用という様に土は全ての中間点であったり、物事を変化させたりします。季節の土用とは立春、立夏、立秋、立冬の前18日間を言い、年に4回この土用の18日間を経て次の季節へと変わります。
(金の性質)
金は金属のように重厚感があり収斂(しゅうれん)性がある性質を持ちます。
五方は西、五季は秋という様に物事の終わりに向かう様を表します。
(水の性質)
水は川の流水のように潤したり冷やしたりしてゆく、下降性の性質を持ちます。
五方では北、五季では冬という様に陰の気の作用が最大のものです。
〇五行の関係
五行の性質とあわせて重要になるのが、その間にある相互関係です。五行の5つの要素は、お互いに助け合ったり(相生)抑制し合ったり(相克)してその関係は成り立ちます。このバランスが崩れると人体では病的な状態と言えます。東洋医学の治療ではこのバランスを整えることが重要になります。
(相生)
相生とは相互に生む、促進するという意味で、木は燃えて火を生み(木生火)、火は木を燃やして灰(土)を生み(火生土)、地中には金属が埋まり(土生金)、金属は冷えて水を生み(金生水)、水は木を成長させる(水生木)、という循環的な産生のことをいいます。生み出す側を母、生み出される側を子ともいい、母は子を助けるこの関係を母子関係ともいいます。
(相克)
相生とあわせて特徴的な考え方で、相互に制約し合うことを相克といいます。木は土の栄養を奪い(木克土)、土は水を埋め(土克水)、水は消化し(水克火)、火は金属を溶かし(火克金)、金物で草木を切る(金克木)、というもので、この相克の関係によってお互いが強くなりすぎるのを抑えます。
五行説を医学に応用する
五行は人体の生理や病理に関わる様々な事柄にも当てはまり、東洋医学では診断や治療の決定に応用されます。そこで用いられるのが、五行の属性を一覧にまとめた五行色体表というものです。五行色体表を使って五臓の病態の診断を行い、治療の決定ができます。
〇人体の生理機能と病理的変化
東洋医学では、相生・相克の関係によって五臓(肝・心・脾・肺・腎)のバランスがとれている状態が正常な状態です。五臓のどれか一つでも機能が弱まったり強まったりして、相生・相克が正しくなされないと、五臓のバランスが崩れて病的な状態と言えます。
たとえば、母である肝の力が弱くなるとその子である心も弱まってしまいます(相生の障害)。さらに肝が弱っているため、それを抑える肺からの相克が過剰に起こります(相乗)。これは五臓のバランスが崩れた病的な状態で、人体にも様々な症状が現れます。
このことから、五臓のどこに問題があるかを診断することが重要になります。
〇診断
東洋医学の診察とは望・聞・問・切の四診を言い、望とは視診、聞とは聴診、問は問診、切は触診のことを指します。基本的に診断は、この四診の結果を総合して行われます。この四診において、五行色体表を活用し五臓のどこに問題があるのかを診断します。
五行色体表
五行 | 木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
五臓 | 肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
五色 | 青 | 赤 | 黄 | 白 | 黒 |
五官 | 目 | 舌 | 口 | 鼻 | 耳 |
五華 | 爪 | 面・色 | 唇 | 毛 | 髪 |
五液 | 涙 | 汗 | 涎 | 涕 | 唾 |
五志 | 怒 | 喜 | 思 | 悲 | 恐 |
五体 | 筋 | 血脈 | 肌肉 | 皮毛 | 骨 |
五味 | 酸 | 苦 | 甘 | 辛 | 鹹 |
五気 | 風 | 熱 | 湿 | 燥 | 寒 |
これは一部ですが、主に四診に用いるものを表にしたものです。
例えば、五色は五行に対応する色のことで、東洋医学では顔色や目の周辺の色を診ます。五官は五臓が主る感覚器、五華は五臓の状態が外見に現れる部位のことです。これらを見ることで、五臓のどこが病んでいるのかを診断します。
怒りっぽくて目もとに青スジがあり、目の症状がある場合は、すべて肝の症状に当てはまります。顔色がどす黒い、耳が遠い、髪にツヤがないなどはすべて腎の症状です。
これらはすべて四診によって診断することができます。
〇治療
五行説を用いた診断によって五臓のどこに問題があるのかがわかれば、その機能を正常に戻すような治療を行います。機能が弱まっている場合は強め、強まっている場合は弱めるような治療を行い、五臓のバランスを調整します。