聞診とは聴覚および嗅覚による診断法であるが、現代の聴診器を用いての聴診とはやや意味が異なり、聴覚と嗅覚で病人の呼吸音、発声、発語、口臭、体臭などの状態を観察し、正気の盛衰、邪気の消長を探るとともに、臓腑・経絡との関連を診察する方法です。
*呼吸と声音を聞く
健康人の呼吸は、ゆったりとして深く雑音がない。疾病時には、下記のような異常があれわれる。
1)短気…呼吸数が多く、途切れているもので、俗に言う“息切れ”のこと。実証が多く急性で、虚証は多く慢性病に見られる。
2)少気…呼吸が静かで浅く、微弱で言葉も少ない。久病(慢性病)で虚証です。
3)喘…呼吸困難のことで、口を開けて肩で息をする。
・実喘−発作が激しく、息が粗く、音が高い。呼出する時に気持ちがよいもの。
・虚喘−呼吸が弱く、音が低い、息を吸う時に気持ちがよいもの。
4)咳嗽…咳は声あって痰なきもの。嗽は、痰あって声なきもの、共にあるのが咳嗽。
5)嘔吐…嘔は声あって物なきもの。吐は物あって声なきもの。ともにあるのが嘔吐。胃の気の上逆で起る。
6)曖気…「げっぷ」のこと。満腹時に見られる。呑酸を伴う時は、宿食や消化不良による。そうではない時は脾胃や肝の働きが悪い時見られる。
7)逆…「しゃっくり」のこと。一般的には一過性の胃の気の上逆だが、久病に起こる時は注意を要する。
8)太息…嘆息ともいい、ためいきのこと。情志の鬱積による。
9)欠…「あくび」のこと、寒邪に冒された時や、労倦により腎が病んだ時に現れる。
10)噴嚏…「くしゃみ」のこと。風寒などにより、肺気が鼻に上衝した時に起る物です。
11)鼾声…鼾ともいい。「いきび」のこと。卒中昏迷時や、熱が盛んな時に現れる。
*発声と発語を聞く
健康な人の音声は、発声が自然で、なめらかで、音調もつやがある、のびやかです。疾病ときには以下のような異常を起す。
1)寒証 …一般にあまり話したがらない。
2)熱証 …一般によく話したがる。
3)虚証 …声が小さく、軽く。
4)実証 …言語がはっきりして、声が大きい。
5)譫語…高熱時や狂病などで、神気が常軌を失って発する言語錯乱(うわごと)のこと。実証のものを言う。語声が高く力があるが、話の筋は通らない。
6)呻吟…苦しみ、うめく物を言い、通常は痛みによる。
7)驚風証…小児が発作的驚いたように叫もの、発声は鋭く、驚き恐る。
*異常音を聞く
呼吸、発声・発語の異常とは別の異常音のことで、振水音と腹中雷鳴がある。
1)振水音…胃部を叩打したり、動揺させたときに「ピチャ、ピチャ」と音のするもので、胃内に水が貯まっていることを示す。
2)腹中雷鳴…腹部で「ゴロゴロ」という音がするもとで、腸が冷え、清濁を分別できないときに生じる物。
*臭いを聞く(嗅かぐ)
臭いを嗅ぎ分けるのも聞診の中に含まれている。 実際の臨床で役に立つことは少ないが、主なものを挙げておく。
1)口臭は歯槽膿漏か胃炎で、一般によく胃が悪いと言われる。
2)汗の臭いは健康人でも生じるが、長びいて酸っぱい匂いのするのは、湿熱が表に停滞していると考えられる。インフルエンザ等で発熱、発汗が続いた後によく経験する。
3)鼻臭は当然副鼻腔炎であろうが、悪性腫瘍も混在するので注意が必要であろう。身臭には腋臭もあるのでそれ程意味はもたない。
4)排泄物については悪臭と酸臭に分けられているが、概して言えば、悪臭は急性炎症に伴う臭いで熱とされ、酸臭あるいは生臭いにおいは、慢性炎症乃至は悪性腫瘍等によるもので寒性とされる。
臭いと五臓の関係
五臓五香(五臭)
肝 …… 羶(あぶらくさい)
心 …… 焦(こげくさい)
脾 …… 香(かんばしくさい)芳しい
肺 …… 腥(しょう)(なま臭い)
腎 …… 腐(くされ臭い)
*五声
病勢が進んだり、高熱を発するようになると、障害を受けた臓器により特徴的な発声をする。その声の特徴を聞き分けることによって、障害を受けた臓器を特定する。
1)肝の障害…呼―人をむやみに呼ぶ、大きな声を出す。病気の苦痛を強く訴える。
2)心の障害…笑・言―言語がはなはだ多くなり、平常、無口の者でも多く話すようになる。
3)脾の障害…歌―鼻歌を歌い、いつも歌を口ずさみ、歌うように話し掛ける。
4)肺の障害…哭(泣く)−内向的な性格となり、単純なことに泣きやすく、あるいは 泣きごとをいうようになる。
5)腎の障害…呻―うなり声を出す。ことにあって体力が伴わず、あくびが出やすくなる。