気血津液辨証とは臓腑学説中の気血津液理論を用いて、気血津液の病変を分析する診断方法である。つまり〔気病、血病、気血同病、津液〕を弁別する。
気病辨証
気の病症は非常に多いが、臨床上常見するものは主に気虚、気陥、気滞、気逆の4種がある。
1.気虚証
気虚証とは身体の機能低下により現れる証侯である。久病、過労、高齢等で体が弱ることにより起こる。
息切れ、精神疲労、眩暈、自汗、動くと症状が悪化等。舌質淡・苔白、脈虚・無力
2.気陥証
気陥証とは気が虚して昇挙無力となるために、気が下陥した証侯である。気虚証の進行や労累、ある一臓の気が損傷して起こる。
眩暈、息切れ、倦怠、長期に渡る下痢、腹部の墜脹感、脱肛、子宮脱、内臓下垂〔西医〕等。舌質淡・苔白、脈弱
3.気滞証
気滞証とは人体の特定の臓腑や部位の気機が阻滞し、運行不良となる証侯である。気滞の原因は大変多く、七情、飲食、外邪の感受等が関与している場合が多い。
脹悶、疼痛
4.気逆証
気逆証とは気機の昇降失調により、気が上逆しておこる証侯である。臨床上は肺気、胃気、肝気の上逆が常見される。
肺気上逆 咳嗽、喘息
胃気上逆 しゃっくり、ゲップ、悪心、嘔吐
肝気上逆 頭痛、眩暈、昏厥、吐血等
血病辨証
臨床上常見するものには主に血虚、血お、血熱、血寒の4種がある。
1.血虚証
血虚証は脾胃虚弱による生化不足、急慢性出血、七情過度による陰血損耗などによりおこる。
顔色が悪く白または萎黄、唇色は淡白、爪甲が白い、眩暈、目のかすみ、心悸、不眠等。舌質淡・苔白、脈細無力
2.血お証
寒凝、気滞、気虚、外傷等により血行が悪くなり、経脈上や臓腑等に血が停滞しておこる証侯。
刺すような痛み、拒按、夜間増悪、腫隗、顔色・唇・皮膚等が紫暗色、閉経や生理に血隗を伴う等。舌質紫暗またはお斑、お点、脈細渋
3.血熱証
臓腑の火熱が盛んになり、熱が血分に入ることでおこる証侯。煩労、飲酒、七情等が原因になる。
吐血、尿血、じく血〔鼻出血〕、咳血等の出血症状、舌質紅絳、脈弦数
4.血寒証
指などの局部の脈絡が、寒凝気滞のために血行障害を引き起こした証侯。寒邪の感受等が原因。
手足の疼痛、皮膚が紫暗色で冷たい、冷えを嫌い温めると疼痛は軽減、少腹部の疼痛、生理の遅れや経色紫暗、血塊等。舌質淡暗・苔白、脈沈遅渋
気血同病辨証
気と血は密接に関連している為、疾病が生じると気血相互に影響を与える。
1.気滞血お証
気機が鬱滞して血行が阻滞し現れる証侯。情志の問題等から肝気の鬱滞が長引いて起こる場合が多い。
胸脇脹悶、放散痛、イライラ、脇下痞塊、刺痛拒按、婦人では閉経や痛経、経色紫暗、血塊等。舌質紫暗あるいはお斑、脈渋
2.気虚血お証
気虚のため血を推動する力が無力となり、血行が滞り現れる証侯。久病による気虚から起こる。
顔色淡白または暗い、倦怠乏力、息切れ、胸脇部に刺痛や拒按等。舌質淡暗あるいは紫班、脈沈渋
3.気血両虚証
気虚と血虚が同時に存在する証侯で、久病により気虚となり生血機能が低下する場合や、出血により気血が同時に失われた場合等がある。
眩暈、息切れ、脱力感、自汗、顔色淡白または萎黄、心悸、失眠等。舌質淡白かつ嫩、脈細弱
4.気不統血証
気虚により血液を統摂できないためにおこる出血を伴う証侯。久病等による気虚が原因となる。
吐血、血便、皮下お斑、崩漏、息切れ、倦怠脱力、顔色白く艶がない、舌質淡白、脈細弱
5.気随血脱証
大量出血時におこる気脱の証侯。外傷や内臓破裂等が原因で重篤な症状である。
多量の出血と共に顔面蒼白となる、四肢厥冷、大汗等。舌質淡白、脈微細または浮大散
津液辨証
津液の病証は一般に津液不足と水液停聚〔停滞〕に分けられる。
1.津液不足
津傷ともいわれ、津液が少ない証侯。胃腸虚弱や久病により津液の産生が減少したり、内熱や大汗、嘔吐、下痢等で津液を消耗することが原因となる。
口や咽喉の乾燥、口唇が乾燥して割れる、皮膚がカサカサになる、小便短少、大便干結等。舌質紅、少津、脈細数
2.水液停聚
外感六淫、内傷七情が、肺・脾・腎の水液の輸布や排泄作用に影響して起こる。
1)水腫 陽水 頭面部の浮腫で一般に眼瞼から始まり全身に及ぶ、小便短少、風邪の症状を伴う舌苔薄白、脈浮緊、あるいは咽喉脹痛、舌質紅、脈浮数
陰水 浮腫は腰部以下に著しい、小便短少、腹脹、便溏、顔色が悪い、下肢の冷え等。舌質淡・舌苔白、脈沈、あるいは舌質淡胖・舌苔白滑、脈沈遅無力
2)痰飲 痰証 咳喘喀痰胸悶、悪心、嘔吐、痰涎、眩暈、痰鳴、半身不随、喉中の異物感等。舌苔膩、脈滑等
3)飲証 咳嗽、胸悶、多量の薄く白い痰を吐く、痰鳴等〔特に痰証とは吐く痰の質が異なる〕舌苔白滑、脈弦等