2013年9月18日
とても快適な季節になりましたね。
先日、東京に開催された「日本中医学会」に参加して、あいにく十何年ぶりの台風に遭いました。なんとか無事に大阪にも戻ってきました。
「少子化問題を解決する中医学」をテーマとして、大学病院の産婦人科の先生をはじめ、不妊治療専門のクリニックの医師、薬剤師、鍼灸師および中国、台湾、韓国など海外からの医師たちが、さまざまの治療経験を発表されまして大変勉強になりました。
私自身も「不妊症の中医鍼灸治療」のテーマで、特別講演と実演を行いました。久しぶりに大勢な人、しかも、不妊治療の専門家の前にお話しをするのに、とても緊張しましたが、なんとか無事で終わりました。講演の後、実演もして、とてもいい反響が得られました。やはり、理論だけでなく、どこの選穴、手技などに皆さんは興味が持っているらしいですね。
このような学会にもっと参加した方が臨床の治療に役立つになれると思います。
以下は講演と実演した時の写真です。(学術総会リポート)
座長レポート
【 特別講演 】
「不妊症の中医鍼灸治療」林暁萍先生の特別講演を拝聴して
座長:王 財源(関西医療大学)
Ⅰ はじめに
林暁萍先生は1984年に中国遼寧省中医薬大学を卒業され、1992年には上海中医薬大学鍼灸研究科を終了後、1995年に来日、その後、京都府立大学老化研究センターで約3年の臨床研究を経て、現在では林鍼灸院で院長をするかたわら、武庫川女子大学薬学部で非常勤講師をされています。今回はそれらの豊富な知識経験より、不妊症の中医学理論を用いた不妊症に対する治療方法と実技を公開して頂きました。
Ⅱ 治療方法
林鍼灸院では2009年5月から2013年7月までに他の医療機関で不妊症と診断された挙児希望で来院し、中医弁証論治による鍼灸治療継続3ヶ月以上(鍼灸治療のみおよびART+鍼灸治療)行ったことで、113名の方が自然妊娠とARTで初めて妊娠したことが示し出されています。林暁萍先生は不妊症を腎虚、肝鬱気滞、痰湿、瘀血型と4タイプに分類している(表1)。
分 型 | 治療原則 | 処方穴 |
① 腎 虚 | 温陽強腎、 調補衝任 | 関元、三陰交、足三里、血海、腎兪、志室、中極、大赫、太谿 など 腎陰虚の症状があれば上穴+復溜、陰郄、然谷、照海、灸なし。 陽両虚の症状があれば上髎、命門、関元兪 |
② 肝鬱気滞 | 疏肝理気、 調経 | 関元、三陰交、足三里、血海、肝兪、蠡溝、期門、太衝、曲泉、気海など |
③ 痰 湿 | 燥湿化痰、 理気調経 | 関元、三陰交、足三里、血海、陰陵泉、脾兪、太白、曲泉、豊隆、天突 |
④ 瘀 血 | 活血化瘀、 調経 | 関元、三陰交、足三里、血海、地機、心兪、膈兪、合谷、気海など |
■ 治療方針の特徴
1.妊娠しやすい体質を作る目的で弁証後、体質改善の全身治療を行う。
2.愁訴の軽減を目的に全身や局部取穴を行う。
3.通院回数や鍼の刺激量の調節など、患者の個々の病態を考慮して治療を進める。
とくに、人工受精・体外受精か否か、採卵・着床・妊娠の継続など、それぞれの時期に応じた選穴と鍼の刺激量の調節および、施灸の必要性を検討する。
■ 鍼灸治療時の配穴の原則
1.弁証により、配穴を決定し、腹部のみだけでなく、特に遠位配穴も重視する。
また、眼鍼、頭鍼、耳針およびお灸も併用する。
2.調気血・和脾胃・養肝腎を治療原則として、関元・血海・足三里・三陰交を基本穴とする。
また、症状に合わせて適宜配穴を増減する。
Ⅲ 対象と年齢
今回、不妊症による中医鍼灸対象とした患者は113名で、以下の所見がみられた。
1.他医療機関に不妊症と診断された者。
2.当院に週1回以上、連続3ヶ月以上の鍼灸治療を受ける者。
3.他の医療機関に「妊娠が成立した」と確認された者が当鍼灸院に報告した者。
また、林暁萍先生の鍼灸治療を受けて妊娠された113名の患者の年齢は、初診年齢は35.6±3.71歳(最小27、最大44歳)、結婚年齢は30.0±5.0歳(最小23、最大40歳)で、 鍼灸治療は1-2回/週 、鍼灸治療回数は24.4±17.1 回である。
Ⅳ 結果
113名妊娠患者のうち、腎虚証が51名を占め最も多く、次に瘀血証27名。肝鬱気滞証22名、痰湿証13名であった(表2)。
分 型 | 例 数 (%) | 平均年齢 | 平均治療回数 | 人工授精成功率 | 体外受精成功率 | 自然妊娠 |
腎 虚 | 51 (45.1) | 37.20±3.30 | 25.3±18.0 | 8 | 31 | 12 |
瘀 血 | 27 (23.9) | 34.2±4.26 | 19.0±11.77 | 6 | 18 | 3 |
肝鬱気滞 | 22 (19.5) | 34.33±3.33 | 21.62±10.6 | 8 | 10 | 4 |
痰 湿 | 13 (11.6) | 35.46±2.33 | 28.3±27.97 | 2 | 9 | 2 |
以上の結果から次のことが示唆された。
① 中医弁証による鍼灸治療は女性不妊症に有効な治療法である。
② 中医弁証による鍼灸治療とART療法との併用は妊娠成功率を高める。
③ 不妊症患者の内、高齢による腎虚型が一番多いこと。
④ 湿邪による痰湿型の治療時間は最も長いこと。
合わせて不妊症の鍼灸治療の利点も示唆された。
① 有効性が期待できる(不妊症治療 or ARTの成功率をあげる)。
② 安全、苦痛が少ない、副作用がない。
③ 体質改善、全身症状や精神不安の改善に効果がある。
Ⅴ おわりに
日本はすでに少子高齢化を迎え、今後、晩婚化、晩産化の流れで、不妊症患者、さらにARTを実施する患者の増加も予想されています。このような社会状況の中で、中医鍼灸が日本国内における少子化問題を解決する一筋の光明として今後期待できるものだと思われます。今回、特別講演をお引き受け頂いた林暁萍先生は「今後も鍼灸治療の有用性を生かし、もっと沢山の不妊症に悩まれた患者に良い結果を出せるようにお手伝いできることを期待します」とコメントされています。